2010年5月27日木曜日

背の悲曲

素焼きの植木鉢に当たる可視光線の角度や強度は変わらない
開けようとしたサッシュの止まった位置
私の中の竦(すく)み
算段したわけでもない戸惑いがこの日の蔭と日向をつくる
枯れていく季節の楽観的なひだまりに遊ぶ不運

私はここにいて
あなたは埒外(らちがい)にいて
ラスクは硬くて
私は座席のシートベルトに縛られて
あなたは重い荷物の理不尽に身動きできなくて
手を振った

いつからか涙ぐむことのできなくなった少女
あなたの長い影が
人の世のギブスに棲(す)む処罰に力なく微笑む
抱き締めたい
抱き締めても抱き締められない背の悲曲

踏みしだかれた秋(とき)の花壇に
終わりのない回り道に
あなたをさがす

私は白い黄昏にいて
あなたは上辺で薄情になれなくて
神さえ逃げたあの朝
私はバスの窓を開けて
あなたは残りの未練を捨てて
手を振った

2008年9月

2010年5月20日木曜日

Catastrophe(破局)

ファシズムの嵐が吹き荒ぶ国
人皆寝静まる嵐の夜な夜な
窓の硝子に涕溢れ
筋道を捥(も)ぎ取る時代(とき)の流れ
蔑(ないがしろ)にする喪衣(もぎぬ)

無常の風が朝に日に幹を折り
深い沈黙はまやかし繭籠り
空漠たる比翼の鳥連理の枝
露にさえ晒される誣言の骨格
我が漂白の途

雲が逝き虹を渡って夫(ひと)が逝き
憂えに口を鎖すと法は青葉を焼く
顧みる禁獄の日々
右向け右の汚れた壁涸れた庭
願うはこの国のカタストロフィ

21:56 2010/04/25 日曜日

Catastrophe(カタストロフィ・破局)

2010年5月18日火曜日

実の無い衣

一雨ごとに
水溜り
人溜り
溜息雑(ま)じり
非人の泥濘に落ちて落ちて
濡れ衣に身を包み
ヒロイン

深緑広がる初夏(はつなつ)
一雨ごとに
緑濃く
碧恋う空
白刃を突き付ける地の舌
為ん方無く血の池に指を浸す
実の無い衣を着せられて
デッドライン

一雨ごとに
紫草の白く白く
文字を紡いで私記を越える
言葉質人質
雪(すす)ぐ名も汚れ
亡き人の長方形の石の無念
戸口の表札
案じる行(ゆ)き先
内在する欠陥血管
レクイエム

22:12 2010/05/01 土曜日