2010年4月28日水曜日

一人の手

夜更けて一人の手
誰にも触れないゆびは
冴えて鋭い
二度と触れさせない
二度と触れたくない
二度と触れない
みすぼらしい傷をなぞらせない

古びた枕の下のいじけた夢
ざんげをしてほっとしたりしない
ざんげをして許しを乞わない
噛み合わない春に背を向け
淡々と 脹物(はれもの)を抱く

満月の街道沿いに
死に別れた人
落ちる桜の雪
ついて行く青い影

21:27 2010/04/21 水曜日

2010年4月22日木曜日

House of no regrets(成田悦子訳)

The house where I was born,
Still stands for who I am,
Every stone laid is a bridge made
To my past.

ひとが生まれ
ひとがひとであろうとする
カ タチヅクラレルわたし
積み上げる徒労
悔いのある場所に架かる虹の橋

The house where I grew tall,
Towers over me,
Shadows bring everything back in soft light,
I wouldn't change yesterday,
not in my life.
And so,I live in a house of no regrets.

春の訪れ
やわらかな日差し
泡沫(うたかた)のゆめをみた
何時の間にか わたしはひとの容(かたち)を忘れていた
かわらない
わたしはこのときを捨てることができない
そうして悔い改めることはない

There are many rooms inside my head,
Corridors that wind through time ever on
They are journeys meant to be,
Every house is part of me.

残された季節
吹き抜ける風の通路
過ぎた陽の翳(かげ)りを指で辿る
ああ何もかもがわたしだった

The house of I found love,
Lingers,sends me shivers,
Like the first time,stairways I climb,
To the hights.

あなたを知り
あなたの居場所に向かう一歩を踏み出した
あなたの側から立ち去る事が出来ず
初めてのことのように悦びに震えた

The house where I grew old,
Will be free of ghosts,
From what I've done,
I won't run come the dark night,
I wouldn't change yesterday,
not in my life
So,I'm leaving the house of no regrets.

ひとは老いて
為したことの亡 霊から解き放たれる
過ぎた日々を振り返ることのない罪の家
わたしはもうナニモノカラモ逃げはしない
だから
今、悔い改める ことのない此処を後にする

2010年4月19日月曜日

さくらの花を散らせますように

似通う人に逢ったことはありません
似通う日々を送っています
似通う道に似通う花が咲く季節です

さくらが咲いた

聞 きました
昨日は近くの神社で歌声が流れていました
あなたがいたから聞こえた音です
あなたがいたから其の歌を口ずさみもしました
あ なたがいないからわたしの窓辺を避けるように流れて消えます

思い出は重い荷物です
さくらの花を見たくはありません
さくら の花を見てはいけません
さくらの花が早く散りますように
明日は雨が
明後日は風が
さくらの花を散らせますように

あ の人のいないわたしがひとりさくらの花を見て
明日を思ってはいけません
あなたのことだけを思って
移り変わる季節とともに色褪せる
「人 の春」のように
あなたを忘れたりしてはいけません
あなたの途切れた思いだけに拘泥し
あなたの美名を穢さぬよう
未亡人をも う死んだ人と読んで頂きます

にがわらいをしてる?
にがわらいもできない人でした
あなたも愛を知りませんでした
け れどあなたはいちばん愛することのできる人でした
わたしに愛することを教えたのはあなたです

18:54 2010/04/05 月曜日

2010年4月17日土曜日

春を繰る

弛(たゆ)むそらの外(はず)れ
ひとのはずれ
ぼとるの底は網に外れてきよらかな
火にかけて雪が溶ける
便りもなく春を繰る

たゆとう流れを審(つまび)らかに
骨ばる作品の実体の空しくあれ
明らめて並んで飾り窓
ひとのはずれ
仄(ほの)暗い座席に加わる

彷徨う森の外れ
祭りの盛りの苦いピリオド
つぐないは聖書の上の爪ほどに外れ
背理は床の上のひーるに止まる
ひとのはずれ
ひとにはずれて

20:08 2010/02/08 月曜日 

2010年4月15日木曜日

仕合せ 雪

メルヘン絵本の中で
仕合せ
雪のページを捲(めく)る君
雪は静かに積もるかい
キリストは仕合せだけを
抱き締めるだろ

昨日からパジャマのままさ
少女の夕食はパンくずの膳
賛美歌が好きだったんだ
歌うことができたら
あの重過ぎる紙
メルヘン仕合せ雪だって
読んでいた

不幸の味を知らないんだ
無理矢理口に突っ込まれた
不幸の味を知らないんだ
生きられなかった
もう生きられないと
見詰めた目から零れ落ちた
躊躇(ためら)いのない涙の前で

門灯を消したのは祝福だ
金庫にしか入らない祝福
少女はメルヘンを捨てた

2007年12月(Yahoo「仮泊」で作って発表した詩、政府とYahooが「仮泊」を不正に削除しました。) 

2010年4月14日水曜日

消え消える春の夢

忘れられた花の情景は
波間に消え消える春の夢
果敢なく落つるものがたり

わびしい待合室
ハンカチを広げ過ぎた日の椅子に腰掛ける
果てしもない打ち明け話が寂(さび)れた線路を通過する
跌(つま ず)くたび
器用さを欠いた覚悟に支えられ
未決の獣道(けものみち)を歩く

散る花びらを 噛めば
不確かさが口の中に広がり
逃れられない定めがおかしくて

報いを受け
見放され
翳(かす)む空の下
一本向(ひたむ)きであろう
晴れ晴れとしてあろう

無心にくちづける土の上
ひとしきり
雨に打たれた花の姿は
遠 ざかる春の夢の痕(あと)

2008年4月19日 土曜日19:21:58

2010年4月6日火曜日

さくらよ散れ

さくらが咲いたという
さくらの希望を思い出したくない
あなたに逢えない
戸を鎖し
わたしは曇り硝子の内側
夜更けて
四月
灰になりたい
さくらよ散れ

五月
殺す国に生まれ
灰になったひと
落丁に似て

懐かしい歌を歌い
今年も海辺に小さな花を摘み
六月
わたしは花の色を思い出せない
絵の具を憂鬱な風景に塗り込めて
あめあめふれふれ
あめあめふれふれ
灰をこの国に

1:08 2010/04/05 月曜日

2010年4月4日日曜日

お母さんあなたはわたしを哀せませんでしたね

お母さんあなたはわたしを愛せませんでしたね
あなたの容れものに定まらない子供でした
食卓を囲む不義を憎みました
汚れた食物に手を着けることができませんでした
男に仕える女の重荷が忌まわしく
不器用な ひとと空腹の前で
わたしはあなたを恨むこともなくわたしはわたしを裁きました

水を飲むように得られるものがわたしにはありません
渇 いて臥す砂の上
終わらない夏
身を隠す岩影が見あたりません
傾いた愛の容(かたち)は抱擁でした
身を焼き尽くしわたしを沙 (すな)に返すことでした
血の煮え滾(たぎ)る悦び
眩しいほど汚れる肉に殉じる哀
放り出す魂の明日
投げ出したい清いいの ち

砂の上青い空
寄せては返す波
目を瞑ると潮の鼓動
果てしない海原につながれて
お母さんあなたにはもう逢 えません
わたしはちぐはぐに海の上を旋回するかもめでした

お母さんわたしはそれでも遠くにあなたを愛しました
愛すること は愛を説くことではありません
愛さないことは愛せないわたしを作ることではありません
愛せないことは愛の軽さばかり口にするわたしを育 てることではありません
お母さんあなたが愛せない理由を持ったために
わたしは愛の意味を求めました

愛だけがひとを救うと あなたは教えました
暗い森を住処とし
分け合う林檎を求めてわたしは地の果てまで歩きました
愛はうつくしい虹の橋でした
愛 は血と血の偽りの誓いでした

今日も
砂の上青いだけの空
寄せては返す波
潮は引き
わたしの手の平に遙かな沙
波に砕かれた骨

引き裂かれたひとの確かな愛が

2:58 2010/04/04 月曜日

2010年4月3日土曜日

いのちの咀嚼

身を焦がす悲に従って
手に入れたお前は
定められた空の青の下
定められた部屋の
定められた食卓
定められた皿のパン
味気ないいのちの咀嚼
罪を重ねては戸棚に飾る
祝福の与えられない飾り棚

望みを抱いて
朝に町に出かけ
夕べに悔いて
故意に
背を向ける
戸を閉ざし
定められた安寧を呼び寄せる

留まり呑み込む成分が器の上辺を取り繕う
幸いに満ちるワイングラス

お前が約束してくれた渇き
空に青く悲が昇る

身が欠けた月日
かけがえのない手を離す
道が途絶え
迷い
定めの海に沈む

1:31 2010/04/03 土曜日

2010年4月2日金曜日

貴方の骨を抱く

誰でもいいな
ここに
思うこともない
もう誰も
ここに
欲しいと思うことはない

誰でも同じだな
思って
いらない
何にもいらない
いらない何も欲しくない
ひとり貴方の骨を抱く

貴方がいないからもうわたしもいない
貴方がいないからそうわたしはいらない 

許さない今日
許すことのない明日
許さないことの永遠の痛み

逃れられない契約
わたしは貴方がいたからいた

誰でもいいな
どうでもいいな
誰もいない
どうにもならない

貴方がいないからもう何処にも行かない
貴方がいないからもう何処へも行けない

許すことはない
許されるとおもうな
許さないことと
許されないこと
許さないことをわたしに許し
許されないことを思い知りなさい

誰でもいいか
どうでもいいか

胸が軋(きし)む

空には星があり
貴方は星ではなく
地に道があり
貴方に続く道は今はない
手の平に貴方に繋がれる道筋があり
貴方に救われる筋道を指で辿る

2:09 2010/04/02 金曜日